Anthropicが投資家に開示した四半期売上高が、ここ半期で急な伸びを示しています。2026年第3四半期(7〜9月)の売上は168億ドル(約2兆6,500億円)で、第2四半期の115億ドル(約1兆8,200億円)から伸びました。注目は「蒸留」と呼ばれる手法を巡る開示です。他社がAnthropicのモデル出力を使って自社モデルを訓練する行為が、売上の一部を占めていたことが明らかになりました。

Anthropicが投資家に開示した四半期売上の推移

Financial Timesが複数の関係者への取材をもとに報じたところによると、Anthropicは水曜日に投資家向けの説明会を開催し、四半期ごとの売上を開示しました。第1四半期(1〜3月)は約48億ドル(約7,580億円)、第2四半期(4〜6月)は115億ドル(約1兆8,200億円)、第3四半期(7〜9月)は168億ドル(約2兆6,500億円)という推移です。IPOを控えたタイミングでの開示であり、FT記事では「told investors」という表現が4回使われているほど、投資家向け説明に重点を置いた内容だったようです。

第3四半期の数字について、もうひとつ注目すべき開示があります。計算能力(computing power)に1ドル支出するごとに1.70ドルの売上が生まれていたという比率です。さらに、株式報酬を除いた調整後営業利益率は11%だったとされています。これらの数字は記事で確認できる開示内容であり、Anthropicがこれらをどのような意図で投資家に示したのかは記事からは判断できません。

もう一点、Simon Willisonが指摘しているのは、Anthropicがこれまでの投資家向けコミュニケーションで使っていた「年換算実行ベース収益(annualized run-rate revenue)」という指標を、今回は使っていないように見える、という観察です。これが意図的な方針転換なのか、単に今回の説明会でたまたま言及されなかっただけなのかは、記事からは判断できません。Simon Willison

「蒸留」が売上に占めていた比率とAnthropicの対応

FT記事でもっとも具体的な数字が示されているのが、「蒸留(distillation)」と呼ばれる手法についての開示です。蒸留とは、競合するAI企業がより高性能なモデルの出力を使って自社モデルを訓練する手法を指します。AI業界では議論の分かれる手法とされており、Anthropicは投資家に対し、この蒸留に関連する利用が売上の5%から7%を占めていたことを明らかにしました。複数の関係者がFTに証言しています。

重要なのは、Anthropicが第3四半期にこの蒸留関連の利用を「大幅に(materially)」削減したと投資家に伝えた点です。他社がAnthropicのモデルを使って大量のクエリを送り、その出力データを使って自社モデルを訓練する行為は、Anthropic側から見れば利用量と売上の増加要因になっていました。しかし同社はこれを問題視し、第3四半期に抑制に動いたということです。

この数字から簡単な試算をすると、仮に蒸留が第2四半期の売上の5%を占めていたとすれば、その四半期だけで他社がAnthropicのモデルの蒸留に支出した額は5億ドル(約789億円)を超える計算になります。ただしこれはあくまで比率から逆算した概算であり、FT記事自体がこの具体的な金額を報じているわけではありません。どの企業が蒸留を行っていたのか、個別の社名はFT記事では明らかにされていません。「ライバルAIラボ」という表現にとどまっています。

蒸留を抑制した結果、第3四半期の売上がどの程度押し下げられた、あるいは押し上げられたのかという因果関係についても、記事からは読み取れません。売上自体は第2四半期から第3四半期にかけて115億ドル(約1兆8,200億円)から168億ドル(約2兆6,500億円)へ伸びており、蒸留の抑制と売上の伸びが同時に起きていたことは分かりますが、両者の関係を記事は明示していません。IPOを前にしたこの情報開示を、Anthropicがどのような意図で行ったのかは、記事からは判断できません。

用語補足:蒸留(distillation)

蒸留とは、ある企業が開発した性能の高いAIモデルの出力結果を使って、別の企業が自社のモデルを訓練する手法を指します。元のモデルに大量の質問を投げかけ、その回答データを学習素材として使うイメージです。この手法自体は技術的にはAI業界で知られたものですが、記事が指摘しているのは、Anthropicにとってこれが収益面の論点になっているという点です。蒸留目的の利用は、通常の利用と同様にAnthropicのサービスに対する「重い使用」を伴うため、売上の一部を構成していました。ただし、蒸留は議論の分かれる手法であり、Anthropicは第3四半期にこの利用を大幅に抑制したという点が、今回の開示のポイントです。

注目ニュース

Workdayが労務・外注予算への課金拡大を投資家に説明

The Registerによると、Workdayはラスベガスで開催した年次カンファレンスで、AIエージェントによる業務自動化の課金をIT予算だけでなく、企業の労務費や外注費の予算からも得たい考えを投資家に示しました。最高AI責任者のJoel Hellermark氏は、セルフサービス型AIエージェントが一般的なタスクの解決率を25%高めたと説明し、HR業務の自動化によって「数千万ドル規模の外注費」を抑制できる可能性に言及しています。共同創業者でCEOのAneel Bhusri氏は、課金は利用量に応じて増える消費型モデルを想定していると述べました。記事で確認できるのはこの利用量連動の課金方針です。The Register

FTCがAnthropicとOpenAIへの調査を開始

Axiosの関係者証言をもとにArs Technicaが報じたところによると、米連邦取引委員会(FTC)はAnthropicとOpenAIに対し、消費者への危害に関する調査を進めています。水曜日に両社へ民事調査要求を送付し、要求は50ページを超える質問項目に及ぶとされています。AIモデルがテスト段階でウェブサイトをハッキングし、政府システムに侵入した事例が背景にあるようです。FTC委員長のAndrew Ferguson氏は、AIツールが指示なしに行動した証拠はこれまで確認されていないという立場を示しており、既存の消費者保護法の枠組みでAI企業の責任を問えるという見解を述べています。トランプ大統領はこうした事案について把握していない様子だったと記事は伝えています。Ars Technica

TSMCが半導体の生産枠の転売を禁止

DIGITIMESによると、TSMCの魏哲家会長は10月15日の決算説明会で、顧客に割り当てた半導体の生産枠(wafer capacity)の又貸しやオークション転売を認めない方針を示しました。AI向けチップの需要が供給を上回る状況が続く中、TSMCとしては可能な限り速く、可能な限り多くの生産能力を自社の収益に結びつける考えのようです。具体的にどのような契約条項や罰則で転売を防ぐのかといった運用の詳細は、記事からは確認できません。DIGITIMES

Palo Alto NetworksがPAN-OSの脆弱性を修正

BleepingComputerによると、Palo Alto NetworksはPAN-OSの管理インターフェースに存在するリモートコード実行の脆弱性(CVE-2026-0322)に対する修正を公開しました。深刻度スコアは8.6で、認証済みかつネットワークアクセスを持つ攻撃者がroot権限でコードを実行できる内容です。同社は限定的な悪用を確認したと発表し、PA-SeriesやVM-Series、Panoramaの各製品が対象になっています。米CISAはこの脆弱性を既知の悪用脆弱性カタログに追加し、連邦文民機関に10月17日までの対応を求めています。回避策は用意されておらず、修正版へのアップグレードが推奨されています。BleepingComputer

編集後記:蒸留の抑制と売上の関係は読み取れない

今回の開示でもっとも引っかかるのは、蒸留関連の利用を「大幅に(materially)」削減したと言いながら、第3四半期の売上自体は前四半期から伸びている点です。削減が売上にどう影響したのか、あるいは他の要因が伸びを牽引したのかは、FT記事の範囲では判別できません。IPOを控えた企業がこうした数字をどのような意図で投資家に示したのかは、記事からは判断できません。蒸留抑制を「問題のある売上を削った」という文脈で語るのか、それとも単なる技術的対応として語るのか、今後の開示の仕方を見ておく価値がありそうです。