Qualcommが自社株の新株予約権をAmazonに渡し、その対価としてAWS向けのカスタムチップを複数世代にわたって開発する契約を結びました。予約権は25百万株、評価額にして40億ドル(約6,150億円)に相当し、Amazonが最大600億ドル(約9兆2,300億円)分のサーバー向けチップを購入するかどうかで行使条件が変わる仕組みです。半導体の買い手であるAmazonが、売り手であるQualcommの株式を取得できる新株予約権を対価として受け取るという構図が、AI関連のインフラ投資では珍しくなくなってきています。
Qualcommが新株予約権でAmazonを顧客に取り込む
CNBCの報道によれば、Qualcommは1株161.26ドルでAmazonが購入できる新株予約権を25百万株分発行しました。総額40億ドル(約6,150億円)に相当する規模です。この予約権は2036年9月3日に失効するとされており、10年単位の取り決めであることが分かります。行使は一括ではなく、商業上の取り決めの達成とAmazonによる購入実績に応じて段階的に進む仕組みです。特に、Amazonが最大600億ドル(約9兆2,300億円)分のQualcomm製サーバーチップおよび関連技術を購入することが、行使の条件に組み込まれています。
この予約権契約と同時に、QualcommはAWS向けにカスタムシリコンを複数世代にわたり開発する契約も結びました。対象となるのはAI推論向けの処理と、1.6テラビット級までの光接続です。QualcommのSerDes(高速シリアル伝送技術)と光DSP(デジタル信号処理)技術が使われるとされています。加えて、Qualcommは自社のチップ設計作業をAmazon Bedrock上で実行する計画も明らかにしています。発表を受けてQualcomm株は4%上昇しました。
この契約は単発の取引ではなく、Qualcommがデータセンター事業に力を入れてきた流れの延長線上にあります。同社は今年6月、データセンター向けプロセッサ「Dragonfly C1000」を発表し、2028年からMetaを顧客とすることを明らかにしました。同時に、2029会計年度のデータセンター事業収益目標として150億ドル(約2兆3,100億円)を掲げています。今回のAWS向け契約は、この目標に向けた取り組みの一つに位置づけられます。
Amazonが対価として株式を受け取る形でQualcommの顧客になるという構造は、AIインフラ投資の分野で一般的になりつつある取引形態です。チップメーカーが自社製品の採用と引き換えに株式や予約権を差し出すことで、大口顧客を確保する動きが広がっています。今回の契約も、その一例として名指しできる規模の取引だと言えます。
QualcommはEUのAIギガファクトリー計画にも供給企業として名を連ねる
今回のAmazonとの契約は、Qualcommが欧州で担っている役割と合わせて見ると、別の側面が見えてきます。QualcommはNvidia、AMDとともに、EUのAIギガファクトリー計画へチップを供給する覚書に署名した3社のうちの1社です。このプログラムは最大7拠点を対象とし、総額約300億ユーロ(約5兆3,600億円)規模とされていますが、そのうち公的資金は100億ユーロ(約1兆7,900億円)、ブリュッセルが実際に確約している金額は約10億ユーロ(約1,790億円)にとどまります。建設は来年初頭に始まり、2028年半ばに稼働開始の予定で、10の加盟国が誘致に関心を示しているとされています。
つまり、欧州が自らのAIインフラ供給元として選んだ企業が、その一方でAmazonという一顧客に対して複数世代のシリコン供給と10年に及ぶ予約権契約を結んでいるという構図です。欧州が独自に持つデータセンター向けプロセッサとしては、SiPearlが開発する80コアのArm設計「Rhea1」があります。TSMCのN6プロセスで製造され、今年5月に電源投入を確認、年内の完成が見込まれていますが、供給先はハイパースケーラーではなく、Julichのスーパーコンピュータ「Jupiter」です。
Qualcommはチップ単体にとどまらず、ソフトウェア領域への投資も進めています。6月には、AIインフラ向けソフトウェア企業Modularの買収について協議していたことが報じられました。買収額は約40億ドル(約6,150億円)とされています。市場全体で見ると、Bank of Americaはサーバー向けプロセッサ市場が2025年の270億ドル(約4兆1,500億円)から2030年には600億ドル(約9兆2,300億円)超へ拡大すると予測しており、NvidiaやIntel、AMDもこの領域への参入を進めています。
出典記事は、欧州がアクセスできることと、主権を持つことは同じではないと指摘しています。今回のQualcommとAmazonの取引は、その具体例として読めます。欧州のギガファクトリー計画に供給されるチップは米国企業のものであり、計画自体の資金も、大部分がまだ確約された段階には至っていません。TNW
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編集後記:予約権という対価の形
Qualcommの契約で気になるのは、Amazonが顧客になる対価としてQualcomm株を取得できる新株予約権を受け取っている点です。通常の取引なら現金が動く場面で、株の予約権が使われている。しかも行使は商業上の取り決めの達成とAmazonによる購入実績に応じて段階的に確定する仕組みで、2036年9月3日に失効するとされています。契約の規模だけを見れば派手ですが、行使が確定するまでの道のりは長いということでもあります。欧州のギガファクトリー計画についても同様で、300億ユーロ(約5兆3,600億円)という総額のうち、公的資金枠は100億ユーロ(約1兆7,900億円)、実際に確約されているのは約10億ユーロ(約1,790億円)、つまり公的資金枠のさらに10分の1程度にとどまります。金額の大きさと、それが実際に確定している範囲は別の話として読む必要がありそうです。
