エンタープライズの5社に4社は、AIエージェントの権限管理を導入しても、暴走したエージェントを止める仕組みを持っていません。Visaの技術部門トップが登壇したVB Transform 2026では、AnthropicのMythosに自社の決済網を攻撃させる実演が披露されました。小さな脆弱性がつながり合い、実際に機能する攻撃チェーンへと組み上がっていく様子は、権限を与えることと、それを制御することの間に、まだ大きな溝があることを示しています。
Visaが実演、AIエージェントが小さな穴をつなぎ攻撃チェーンに変える
VB Transform 2026の壇上で、Visaの技術部門プレジデントであるRajat Taneja氏は、AnthropicのAIモデル「Mythos」を自社の決済網に向けて動かすデモンストレーションを行いました。Mythosは個別には大した問題に見えない小さな脆弱性を見つけ出し、それらを縫い合わせるようにして、実際に機能する攻撃の連鎖を組み立てていったといいます。
このデモが特徴的なのは、Visaがこの探索を制御するハーネス(実行環境の仕組み)そのものをオープンソースとして公開した点です。攻撃を見つけるだけでなく、その発見をどう扱うかまで踏み込んで示せる企業は、エンジニアリングの厚みを持つ組織に限られます。多くの企業はそこまで到達していません。
数字がそれを裏付けています。エンタープライズの53%が、すでにエージェント関連のセキュリティインシデントかその未遂を経験しています。実行時にエージェントの権限を制御している企業は65%に達しますが、リスクの高いエージェントを隔離している企業は18%にとどまり、権限制御と隔離を両方組み合わせている企業はわずか8%です。権限は絞れても、隔離までは手が回っていない、という構図が浮かびます。
こうした状況の背景には、セキュリティ対策を提供元のプラットフォームに委ねる傾向があります。VentureBeat Pulse Researchの7月調査では、セキュリティの主軸レイヤーを一つ挙げた企業のうち92%が、ハイパースケーラーやAIプラットフォーム提供元の機能をそのまま使っていると回答しました。プロバイダー標準の管理機能に頼ることは、隔離と権限制御を両立させる企業が8%しかいない現状を、さらに広げる方向に働きかねません。この調査は1月から6回にわたって実施され、440件の企業セキュリティ担当者からの回答を集めています。
これらの数字が示す核心は、企業が必要とする対策と、実際に行われている対策の間の差が広がっている点です。しかもそれは、エージェント型AIへの投資判断そのものに関わる企業ほど、手つかずのまま残っているといいます。
満足度データとインシデントデータが食い違う理由
この調査でもう一つ目立つのは、企業が使い慣れたツールを高く評価する傾向が、インシデントの実態と一致していないことです。ツールが実際には機能しなかったり、結果が平凡だったりしても、慣れているという理由だけで評価が高くなる、という現象が繰り返し確認されています。
出典記事はこの点について、生データから浮かび上がる三つの発見を挙げています。いずれも、エージェント型AIのセキュリティ市場がまだ若い段階にあることを物語る内容だとしています。ただし、この三点の具体的な内訳については、今回確認した出典の範囲では詳細が示されていません。
確認できるのは、権限制御を実行時に敷いている企業の割合(65%)と、そのうち実際に高リスクのエージェントを隔離できている割合(18%)、そして両方を満たす企業の割合(8%)という三つの数字の関係です。権限を絞ることと、危険なエージェントを物理的・論理的に隔離することは、別の作業だということが、この差から読み取れます。
Visaのようにオープンソースのハーネスを公開し、攻撃チェーンの成立過程を検証できる体制を持つ企業は、今回の記事で紹介された事例としては例外的な位置づけです。多くの企業にとっては、権限制御の仕組みを導入した時点で「対策済み」と見なしがちですが、実際に暴走したエージェントを隔離できるかどうかは別問題として残ります。プロバイダー標準の管理機能に依存する割合が92%に達している現状は、この隔離の部分を自社で作り込む動きが、まだ広がっていないことを示唆しています。
出典: VentureBeat
注目ニュース
エンタープライズのオーケストレーション運用、107社調査で複数プラットフォーム併用が標準に
VentureBeat Pulse Researchの別調査では、107社を対象にエージェントのオーケストレーション基盤の使われ方を調べています。単一プラットフォームに絞る企業はむしろ少数で、85%が2つ以上、64%が3つ以上のプラットフォームを併用しており、1社平均で3.1のプラットフォームを運用しています。Microsoft AI Foundry / Copilot Studioは70%の企業のスタックに含まれ、OpenAIのAgents SDKが68%、AnthropicのClaude Platformが47%という内訳です。単一の主要プラットフォームを一つだけ挙げるよう求めた質問では、Microsoftが41%で首位、Anthropicが28%で続きました。一方で、暴走したエージェントを課金発生前に止めるリアルタイムの手段を持たない企業が5社に1社残っている点も明らかになっています。企業が恐れているのはベンダーロックインそのものではなく、プロバイダーが提供するセキュリティや権限管理機能の限界だという点が、この調査の特徴です。
出典: VentureBeat
SpaceXAIがGrok 4.6を投入、Artificial Analysisで世界3位に並ぶ
Elon Musk氏の会社SpaceXAI(旧xAI)が、新モデル「Grok 4.6」を発表しました。長時間稼働するエージェント、コーディング、知識労働タスクに重点を置き、これらのワークロードを従来より安く動かせる価格戦略を打ち出しています。第三者機関Artificial Analysisの知能指数では61点を記録し、中国のオープンウェイトモデルKimi K3を上回り、OpenAIのGPT-5.6 Sol Maxと並びました。前バージョンのGrok 4.5 Highからは5点の伸びです。1位と2位はAnthropicのClaude Opus 5とFable 5が占めています。APIの価格は入力100万トークンあたり2ドル、出力100万トークンあたり6ドルからで、VentureBeatの分析によれば、プロプライエタリ・オープンソースを含む主要モデルの中では中価格帯に位置づけられるとしています。
出典: VentureBeat
DeepSeekがV4 Proを公開、100万トークンの文脈window搭載
DeepSeekが新モデル「DeepSeek-V4-Pro-0813」をAPIプラットフォーム上で公開しました。100万トークンの文脈windowを備え、エージェント開発者向けのツール機能を明示的に用意しています。価格はFlash階層に対して3倍の設定です。フロンティアモデルの水準に近づいているとPandaily は評していますが、具体的なベンチマーク結果などの比較データは今回確認した出典には記載がありません。
出典: Pandaily
Lazarus GroupがWindowsゼロデイを悪用、防衛・航空宇宙企業を標的に
北朝鮮の脅威アクターLazarus Groupが、修正済みのWindowsセキュリティ脆弱性をゼロデイの状態で悪用し、これまで確認されていなかったバックドアを配布していたことが、Check Point Researchの調査で判明しました。標的はフランス、ドイツ、ブラジル、インドの防衛・航空宇宙企業です。The Hacker Newsによれば、この活動は長期にわたるサイバースパイ活動「Operation Dream Job」の一部だとされています。
出典: The Hacker News
編集後記:数字の組み合わせが語る隔離の手薄さ
今回の調査で目を引くのは、65%、18%、8%という三つの数字の並びです。権限制御を実行時に敷く企業は多数派になりつつあるものの、危険なエージェントを実際に隔離できている企業はその四分の一程度しかいません。権限制御と隔離の両方を満たす企業となると、さらに絞られます。
Visaの実演が示したのは、こうした隔離や検証の仕組みを自社で組み立てられる企業がどう振る舞うか、という一例です。ただ、それがどの程度の体制を要するものなのかについては、出典記事の範囲では読み取れません。プロバイダー標準の機能に依存する企業が9割を超える現状で、この隔離の差がどう埋まっていくのか、今後の調査結果を追ってみる価値がありそうです。
