npmのキャッシュ関連パッケージから広がった不正コードが、月間20億ダウンロードを持つパッケージ群に達しました。Keyvのメンテナー1人分のGitHubアカウントが乗っ取られ、攻撃者がメインブランチへ悪意あるファイルを直接プッシュし、そのリリースが各プロジェクト自身の正規のGitHub Actionsワークフローを通じてビルド・公開された点に、今回の異質さがあります。パッケージを消しても安心とは言い切れない、という指摘も出ています。
BleepingComputerが報じたChainDrop攻撃の実態
BleepingComputerの報道によると、自己増殖型のマルウェア「ChainDrop」がnpmレジストリで1,300以上のパッケージに感染しました。感染したパッケージの月間ダウンロード数は合計で20億件に上るとされています。感染したパッケージにはKeyvやCacheable、flat-cache、file-entry-cacheといった、いずれも同じメンテナーが管理するキャッシュ関連の人気パッケージが含まれています。攻撃はKeyvのメンテナーのGitHubアカウント乗っ取りから始まり、Deliveroo、Ornikar、OneReach、Picsart、Qlik、ServiceTitanといった大手企業に関連するパッケージへも広がったと報じられています。
セキュリティ企業Aikidoの調査では、少なくとも868パッケージ(バージョン数にして1,381)がこのワームに侵害されたとされています。攻撃の起点は、Keyvのメンテナーが持つGitHubアカウントの乗っ取りでした。攻撃者はここからプロジェクトのメインブランチへ悪意あるファイルを直接プッシュし、新しいパッケージリリースを生成したとAikidoは説明しています。
ここで見過ごせないのは、これらの悪意あるリリースが、各プロジェクト自身の正規のGitHub Actionsワークフローを通じてビルド・公開されていた点です。その結果、汚染されたnpmリリースにも有効な来歴(provenance)情報が付与されていました。この事実は、正規のビルド経路を経たリリースであっても有効な来歴情報が付与されることを示しています。
侵害されたパッケージには、setup.mjsというペイロードドロッパーと、情報窃取用のMath_Symbol.jsという2つのファイルが仕込まれていました。package.json設定ファイルには「preinstall": “node setup.mjs"という記述が追加されており、Aikidoの研究者は「影響を受けたバージョンに対してnpm installを実行した人は誰でも、インストール完了前にsetup.mjsが自動実行された」と警告しています。
感染の仕組みと事後対応で問われる条件
setup.mjsは、GitHubの公式リリースからJavaScriptランタイムのBunをダウンロードし、それを使ってMath_Symbol.jsという情報窃取スクリプトを実行します。実行後は一時的なランタイムディレクトリを削除する仕組みになっています。BleepingComputerによれば、Aikidoが確認したBun実行ファイル経由のMath_Symbol.js以外に、math_init.jsというスクリプトを含む侵害パッケージも同紙自身が確認したとしています。
Aikidoの説明では、この情報窃取スクリプトは侵害された環境から開発者やクラウドの認証情報を集め、暗号化した上で「Shai-Hulud: Here We Go Again」という説明文が付いた公開GitHubリポジトリへ送信します。悪意あるJavaScriptコードは難読化されており、以前に侵害されたパッケージを使用していた他のメンテナーのパッケージへも自己増殖する機能を持っています。トークンはすべて、盗み出す前にregistry.npmjs.orgのwhoamiエンドポイントに対してリアルタイムで検証される仕組みも組み込まれています。
対応面での指摘も重い内容です。影響を受けたバージョンをインストールしていた場合、パッケージを削除した後であっても、開発者のワークステーションやCI/CDランナー自体が侵害されたものとして扱うことが推奨されています。安全なバックアップからの復元、あるいはゼロからの再構築、その環境からアクセス可能だった全トークンのローテーションに加えて、ログでは不正アクセスの有無を、リポジトリでは想定外のコミットや変更の有無をそれぞれ確認することが具体的な対応として挙げられています。
攻撃は現在も進行中とされ、感染パッケージの数や悪意あるバージョンの範囲は今後も広がる見込みだとBleepingComputerは伝えています。依存関係のアローリスト化や整合性チェック、来歴管理の継続が呼びかけられており、侵害パッケージの一覧はWiz、StepSecurity、Aikido、Socket、Ox Securityといったセキュリティ企業から提供されています。今回確認できた出典には、感染の最終的な収束時期や、盗まれた認証情報が実際にどこまで悪用されたかについての記載はありません。(BleepingComputer)
用語補足:provenance(来歴情報)
今回のケースでは、侵害されたパッケージのリリースも各プロジェクト自身の正規のGitHub Actionsワークフローを通じてビルド・公開されていたため、有効な来歴(provenance)情報を持っていました。ただし今回のケースが示すのは、来歴情報があること自体は「攻撃者の手が入っていない」ことまでは保証しないという点です。悪意あるコードが正規のワークフローそのものを通じて配布された場合、来歴情報は正当に発行されてしまいます。この記事の文脈では、provenanceの有無を確認するだけでは不十分で、パッケージの中身自体の検証が必要になる、という事実関係として読むのが妥当です。
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編集後記:正規経路の信頼が攻撃の通り道になった
今回の件で残るのは、パッケージを削除しても安心できないという指摘の重さです。攻撃者はメインブランチへ悪意あるファイルを直接プッシュし、そのリリースは各プロジェクト自身の正規のGitHub Actionsワークフローを通じてビルド・公開されたため、汚染済みのリリースにも有効な来歴情報が付いてしまいました。このため、来歴の確認だけでは汚染されたリリースを判別できませんでした。感染したワークステーションやCI/CDランナーを丸ごと作り直すという対応が推奨されている点からも、この攻撃が単なるパッケージ差し替えでは片付かない性質のものだと分かります。攻撃はまだ進行中で、感染範囲の全体像は現時点の出典では確定していません。
